午前2時。小雨が静かに降り続き、肌寒さがじわりと体に染みてくる。合羽は持参しているものの、ひとまずヤッケで様子を見ることにした。腰には膨張式のライフジャケット。夜の波止は私ひとり、潮の気配と雨音だけが支配している。
やがて少し遅れて知り合いが到着したが、釣り場はまだ空いている。こういう日は釣座選びがそのまま釣果を左右する。沖寄りに構えるか、それとも陸寄りで駆け上がりを狙うか。しばし迷う。
今回の目論見はこうだ。上げ潮で湾奥へ差してきた魚が、下げに転じるタイミングで沖へ戻る。その動きと朝マヅメが重なれば、渋い時期でもチャンスが生まれるはず。あれこれ考えた末、「ここに来た以上は沖寄り」という自分なりのセオリーに従い、一番沖側の釣座を選んだ。

クーラーボックスを腰掛け代わりに据え、周囲に道具を整然と並べる。右手前には自作の竿掛け、正面には撒き餌を満載した5リットルのプラケース。左手には海水を半分ほど入れた45センチのバッカン。準備の一つ一つが、釣りのリズムを整えてくれる。
竿は本来2本出せる体制だが、この日は小雨。無理はせず1本に絞ることにした。狙いはコロダイ。仕掛けは4号5.3mの竿にPE3号、自作のサビキは幹糸フロロ6号。下カゴには吸い込み針を4本。サビキと吸い込みを組み合わせたハイブリッド仕様で、大物にも対応できる構えだ。
コロダイはマヅメ時に波止際を回遊してくる。その前にいかに撒き餌を効かせ、餌の存在を意識させるかが勝負となる。普段より多めに投入を繰り返し、海中に“場”を作っていく。
狙い通り、まずはアジが反応してくる。ただし仕掛けが太いため、良型がかかると口切れで何度かバラす。繊細さと強さのバランスに悩みつつも、アタリを拾っていく。
やがて、そのアジの気配がふっと途切れた。
「来るか…」
次の瞬間、竿先が鋭く引き込まれる。待っていた衝撃。即座に合わせると、重量感のある引きが伝わってくる。これまでの2号竿とは違い、4号竿と太いラインのおかげで主導権は渡さない。だがサイズがサイズだけに抜き上げは難しい。
隣の知り合いに声をかけ、タモ入れを依頼。水面に浮かんだ魚体は狙い通りのコロダイ。無事に取り込んだ瞬間、静かな達成感が広がった。

結果として、午前2時半から6時までで中小アジが約30匹、チヌが3匹、そして本命コロダイが45センチクラス1匹。アジとコロダイは持ち帰り、チヌは知り合いに進呈した。
目論見通りに展開した釣行はやはり気分がいい。
その後、「柳の下の二匹目」を狙って2度ほど足を運んだが、自然はそう甘くない。一度はほぼボーズで、バリコを数匹釣って知り合いに渡しただけ。それでも、最新の釣行では前回を上回るサイズのコロダイを1匹確保。アジも少量ながら追加できた。

どうやらこの時期、コロダイはしばらく回遊してくる様子だ。期待は膨らむばかりである。
とはいえ、釣果が増えると家庭内事情も変わってくる。最近では嫁さんから「次からは誰かに差し上げて」との声も聞こえ始めた。嬉しい悲鳴というべきか。
それでもまた、あの静かな波止に立ち、潮と時間を読む釣りを楽しみたい。次の一投に、また小さな物語を託して。
