春から初夏へ向かうこの時期。山の木々は一斉に芽吹き、暖かい雨が降るたびに川から栄養分を含んだ水が海へ流れ込む。海の中も冬とは確実に変化していて、アジの様子もどこか違う。
最近の朝まずめは、アジがまったく居ないわけではない。魚探があれば反応は出るだろうし、実際にサビキへも時折は掛かる。だが問題は続かないことだ。
「一匹釣れたと思ったら沈黙」
「群れが小さい」
「食いが浅い」
そんな日が増えてくる。
おそらく抱卵を控えた時期特有の神経質さもあるのだろう。冬場のように撒き餌へ一直線に突っ込んでくる感じではなく、どこか慎重だ。
5月19日の朝もまさにそんな日だった。

港で4人並んでサビキを出したのだが、結果は少し極端だった。ベテランを含めた3人が苦戦するなか、なぜか私だけがコンスタントに竿を曲げ、最終的には8匹。
もちろん爆釣というほどではない。しかし、その日の状況を考えれば十分な釣果だった。
釣りが終わると、隣で竿を出していた先輩がすぐに声を掛けてきた。
「仕掛け、ちょっと見せて!」
彼はサビキの違いを疑ったらしい。
確かにサビキ仕掛けは重要だ。ハリスの細さ、スキンの色、針サイズ。その日のアジの反応で差が出ることは珍しくない。
だから仕掛けは快く見せた。
けれど、私は内心こう思っていた。
「今日は仕掛けだけじゃない」
実はこの日、撒き餌にちょっとした工夫を加えていたのだ。

私たち4人のうち、2人は普段から港で顔を合わせる“毎日組”ではなかった。一人は地元の釣り人らしかったが、もう一人は遠方から来た雰囲気。おそらく久しぶりの釣行だったのだろう。
そういう時は撒き餌にも気合いが入る。
高価なアミエビを惜しげもなく使い、豪快に撒く。もちろんそれも間違いではない。
だが、私と先輩は少し違う。
必要以上にアミエビへ頼らない。
むしろ配合の中心は米糠だ。
理由は単純で、春の海は徐々に潮が澄んでくるからだ。潮が澄むと魚の警戒心が強くなる。だからこそ、サビキ釣りでは適度な“濁り”が重要になる。
米糠はその濁りを自然に作ってくれる。
しかも軽く拡散するため、広範囲へアピールできる。アミエビだけを大量投入するより、状況によっては明らかに反応が良い。
そして、この日の違い。
それが「にんにく」だった。
私は100円ショップへ行ったとき、小銭が余ればつい買ってしまう物がある。
チューブ式のおろしにんにくだ。

常温保存できるし、釣り道具箱へ放り込んでおける。必要な時に少量だけ使えるので実に便利。
このにんにくを、撒き餌へほんの少し混ぜる。
たったそれだけ。
だが木の芽が香るこの時期、不思議なくらいアジの反応が変わることがある。
おそらく暖かい雨によって山の匂い、植物の匂い、有機物の匂いが海へ流れ込む季節だからだろう。海の中の環境が冬とは違う。
そんな時期には、強すぎない自然系の刺激臭が効く。
にんにくの香りは、人間には強烈でも、水中では意外と柔らかく広がる。そしてアジのスイッチを入れる“何か”になることがある。
もちろん入れすぎは逆効果だ。
ほんの少量でいい。
米糠主体の撒き餌にアクセントとして加える程度。それだけで食い渋った群れが口を使い始めることがある。
今回の釣果差も、結局はその一工夫だったのだと思う。
もっとも、このアイデア自体は私と先輩の間では昔から知られた話ではある。ただ今回は、私が先に試した。それだけのこと。
とはいえ、本格的にやるとなれば家庭菜園でにんにくを育てている先輩には到底かなわないのだが。

木々が芽吹き、海も春から初夏へ移り変わる季節。
「最近アジが続かない」
「群れが散っている」
「食いが浅い」
そんな時は、撒き餌へ少しだけ“にんにくのエッセンス”を加えてみてはいかがだろう。
案外、そのひと工夫が朝の釣果を変えるかもしれない。
