翌朝のカマス釣り。前夜、布団に潜り込んでも気になって仕方がなかったのは“風”の様子だった。潮回りは前から分かっている。だが風だけは、気まぐれな猫のように読めない。「北風が強ければ風裏一択」これは真冬の定石。しかし明朝は潮位が低い。風裏は浅いぶん遠投が必須、釣座も限られる。つまり、夜明け前から“椅子取りゲーム”が始まるのは目に見えている。
「さて、どうしたものか…?」

まだシーズンは始まったばかり。早い者勝ちの雰囲気は濃厚だし、この北風でも釣り人は必ず来る。知っていて風裏激戦区に並ぶ気も起きない。とはいえカマスは口を使っている時期。一縷の望みは強風で吹き寄せられたベイトが風下に溜まれば、カマスがそこに寄ってくる可能性もなくはない。そんな「淡い期待」と「気後れした言い訳」の混濁した思案の末、 爆風を真正面から受ける釣り座を選ぶという非常識な選択をしてしまう。
午前4時。現場に着くと、暴風の中で場所取りしている車が3台。どうやら1台帰ったようで、空いた3番目に軽トラを滑り込ませた。クーラーを置いて釣り座確保。氷が入っていなかったら飛ばされそうな風だ。軽トラもゴウンゴウン揺れる。これは釣りなのか修行なのか。
竿を準備して車内待機。東の空がわずかに白むころ、一番端の釣人が竿を振り始めた。
「一匹上がるまでは様子見しよう」

そんな余裕を装いたかったが、誰かが始めれば全員ソワソワして始めてしまうのが釣り人の性。爆風に逆らうように、各々キャストを開始した。
しかし、反応がない。
右端の実績No.1釣り座の釣り師も黙々と探るがアタリゼロ。
右隣の若者と私は釣り談義をしつつ、状況は渋いまま。
完全に夜が明け、仕事前組が次々と撤収。
「次のチャンスは陽光で岸壁の影が際立つタイミングだ」
私は勝負時をそこに設定し、地道に誘いを続けた。
結果は、 右隣のベテラン5〜6匹。
私2匹。
左隣ゼロ。そのまた左もゼロ。
「まあ、こんなもんかな…?」
片付け始めると「もう帰るの?」と声がかかる。
「いやぁ、辛抱なくてね」と照れ笑いして退散。
後から耳に入った情報では、風裏に逃げた組も大差なく渋かったらしい。
と、いうことは寒さに耐えて挑んだ私は「戦略的敗北」だったのかもしれない。
北風が吹き荒れた今日。
賢明だったのは「防寒着ではなく、布団の中で英気を養うこと」だったのかもしれない。
また次の釣行に向けて、風の気まぐれに付き合う覚悟を新たにするのであった。
