台風が来る。

子供のころのかすかな記憶に、両親が畳を上げ雨戸を閉めた南向きのガラス戸に当てて手で押さえている場面が思い出されます。

そうしたからと言って特に有効な防御とは言えないだろうに、何かしないと居られなかったんでしょうね。昔の家は基礎は据え石、床下はがら空きで風通しは良いものの、台風の風通しも良かったですからね。

大人の恐れとは裏腹に、小さかった私たち兄弟の楽しみは作り置きされた大量のおにぎりと缶詰の食事でした。

戦争を幼少期に経験した父親は、非常食という観念が強く、たとえ小さな台風でもキチンと非常食を準備させる人でした。

それから何年かは大きな台風の上陸もなく、家も少しは頑丈なところに住むようになった頃。私は父親の営む家業の手伝いをしていました。

その頃に襲来した台風の記憶が2番目に思い出されます。ちょうど上陸地点が白浜辺りだったかな?台風の進路から言えば私たちの暮らす街の風雨が最強と思われるコースでした。

台風の後知り合いのおばあさんの家(海岸からそう遠くない。一人暮らし)を見回りに行って驚きました。

その家は、3部屋ほどの一戸建てでしたが、屋根瓦が剥がれて瓦の下の葺き土が家中にばらまかれていましたおばあさんも土を頭からかぶった状態で泣いていました。

家財も布団何もかもが土まみれ。あっという間の出来事だったということでした。

幸い、近所の人も大勢駆けつけてくれて、おばあさんは近くの娘の嫁ぎ先に避難することになりました。安堵しての帰り道。

往路には気づかなかった被害があちこちにあり、私の家の近くでも鶏小屋が壊れて騒ぎになっていたり、田圃の稲がすべて横倒しになって水没してたり大きな木が倒れてたりしていました。

この地域は古くから台風銀座と呼ばれ、治山治水に対策が取られた地域ですが、「台風の進路によっては、このような被害が出る」ということをこの時実感しました。

今回の台風12号は、東から来て西に抜ける台風で、未経験な風や雨が予想されます。家も丈夫になって、今まで大丈夫だったから今回も大丈夫。というわけにはいかないのが台風です。

少しくらい臆病と言われても、「小さな台風でも非常食を準備させた」私の父親のように備えは怠りなく!