はじめに
今回の私の考察はあくまで私の個人的で勝手な考えに基づくもので世の中の大方の通説とは異なる部分があるかもしれません。万一お気づきの点があれば「おかしな考え方のやつもいるもんだ」と一笑に付してくださることをお願いいたします。
寿司といえば、日本を代表する料理のひとつ。今や「SUSHI」は世界共通語となり、どこへ行っても通じるほど広まっています。そんな寿司のルーツのひとつとされる「なれずし」をご存じでしょうか? 特に紀州(和歌山県)では、秋祭りの定番の食べ物として今でも親しまれています。しかし、現代の「なれずし」は本来のものとは少し異なり、「早なれ」と呼ばれるものが一般的になっています。
今回は、そんな「なれずし」の歴史や種類、そして紀州の伝統的な食文化についてご紹介します。
紀州の「なれずし」とは?

和歌山県の秋祭りでは、大きなサバ寿司を「あせ(暖竹:だんちく)」の葉で巻いたものが定番の食べ物となっています。これを「なれずし」と呼ぶこともありますが、実際には本来のなれずしではなく、酢を使った「早なれ」に分類されるものです。
特徴としては、普通のサバの棒寿司よりも重しをしっかりかけ、サバの身と寿司飯が硬く締まった状態になっています。その食感はまるでチーズや生の切り餅のように、独特の歯ごたえが楽しめます。
寿司のルーツ「なれずし」の歴史
寿司の起源は、魚の保存方法として発展したものです。塩漬けだけでなく、塩漬けの魚と米を組み合わせて保存する方法が生まれました。これが「なれずし」の始まりです。
その歴史は奈良時代まで遡り、皇室に献上された記録も残っています。皇室に献上されるほどですから、当時は非常に貴重で高級な食べ物だったことが想像できますね。
しかし、現代の私たちが思う「寿司」とは大きく異なり、当時は米は発酵を助けるためのもので、食べる目的ではなかったようです。この初期の「なれずし」を、ここでは「第1世代」と呼ぶことにしましょう。
「なれずし」の進化—第2世代へ
時代が進み、米飯を炊いて食べる「姫飯」が一般的になった頃、「なれずし」も変
化していきます。魚だけを食べるものから、「飯」も一緒に食べるスタイルが広まり、「生なれ」と呼ばれるものが誕生しました。この変化により、庶民でも「なれずし」を食べることができるようになったのです。
さらに、「生なれ」は熟成期間を短縮する方向へと進化していきました。しかし、「生なれ」という名前は「生煮え」のようなネガティブな印象を与えかねません。 もう少し良い呼び名があってもよさそうですね。
紀州の「鯖のなれずし」—第2世代の代表格
和歌山県で親しまれている「鯖のなれずし」は、この「生なれ」にあたるものです。つまり、「なれずし」の歴史の中では「第2世代」に分類されます。現在、私たちが食べている「なれずし」は、必ずしも乳酸発酵を利用しているわけではなく、初めから酢を使って作るものもあります。これは「第3世代」といえるかもしれません。
「第2世代」と「第3世代」の共通点は、
1,あせ(暖竹)」の葉で巻く
2,重しをしっかりかけてカチカチに締める
という点です。

伝統を守る家庭もまだ残っている?
現代では、本格的な「なれずし」を作る家庭は少なくなりました。しかし、筆者の妹が旧家に嫁ぎ、その家は伝統的な「本なれ(生なれ)」を作る家でした。ある年、「なれずしを作りすぎて重しをかける桶に入りきらなかった」と言って試しに余ったものを持ってきてくれました。それは「塩サバ」を「おにぎり」にのせて、「あせの葉」で巻いただけのものでした。
「家(ウチ)では伝統で、本なれを作るんやいしょ」
(「やいしょ」は和歌山市内とその周辺の方言で「です」「ます」の意味)今でも「本なれ」を作る家があることに驚きましたが、さらに驚いたのはその「臭い」。「そりゃ食べれませんよ。普通の人には。臭いがすごくて。本なれは。」
魚のチーズ?「本なれずし」の強烈な香り

「魚からできたチーズ」と表現されることもある「本なれずし」。その味はともかく、香りは相当なものです。「ふなずし」もそうですが、「本なれずし」も独特の発酵臭があるため、一部の食通だけが楽しむものになってしまったのかもしれません。
一方、庶民的な「なれずし(早なれ)」の食べ方は、非常にシンプル。付け合わせは「新生姜のスライス」、飲み物は「甘酒」がベストマッチです。日本酒も合いますが、「野趣を味わう」なら自家製の甘酒。 特に、発酵がやや進んだものが最適です。
秋祭りと「なれずし」—昔ながらの楽しみ方
秋祭りの日には、この「なれずし」と「甘酒」でたらふく飲み食いするのが伝統的な楽しみ方。神輿を担いだり、体を動かしたりする祭りの日には、スタミナのある食事が欠かせません。「成人病」なんて考えもしなかった時代の食べ物ですからね。
現代のヘルシーブームとは少し違うかもしれませんが、伝統の味を受け継ぐこともまた大切なことです。
皆さんも、機会があれば紀州の「なれずし」をぜひ味わってみてください!