「秋サバは嫁と一緒に食べたいな」
……なんて言うと、昔からの釣り仲間には笑われるかもしれない。
昔の言葉に「秋鯖嫁に食わすな」というものがあるそうだ。秋のサバは脂がのって格別にうまいから、嫁なんぞに食べさせるのはもったいない――という、いかにも昔の「嫁いびり」らしい言葉である。
同じような言い回しに「秋ナスは嫁に食わすな」というのもある。
今ではサバもナスも珍しい食べ物ではないが、昔は庶民的な食材である一方、秋になると特に美味しくなり、ご馳走としてありがたがられていたということなのだろう。
そう考えると、秋のサバを気軽に食べられる今の時代はありがたいものだ。
もちろん私の場合は「嫁に食わすな」ではなく、「秋サバは嫁と一緒に食べたいな」である。
秋の紀伊水道はサバの季節

釣り場に通う私にとって、秋の初めといえばサバと太刀魚。
紀伊水道周辺の釣り場には、秋口になると脂ののったサバが回遊してくる。これも毎年楽しみにしている風物詩のようなものだ。
できれば太刀魚かサバ、そのどちらかを釣りたい。いや、欲張って両方釣り上げて、晩ご飯のおかずにしたいところである。
8月の終盤から9月初めにかけては、台風崩れの影響もあって、ぐずついた天気が続いていた。
その後もすっきりしない天気が続いているが、水温は少しずつ下がり始めたようだ。そして、ぼちぼち「サバやマル鯵が回ってきた」という話も聞こえてくるようになった。
ところが、ここ最近の私は釣行するたびにショボい釣果。
本来ならストレス解消の特効薬であるはずの釣りが、逆にストレスの原因になっているような有様だった。
そんなところへ「太刀魚はまだだけど、サバは回ってきている」という情報が入った。
これは行くしかない。
話を聞いて釣り場へ駆けつけてもボーズ……ということを何度か繰り返し、ようやく今回、良型のサバを何匹か釣ることができた。
久しぶりに「釣ったぞ!」と思える釣行になったのである。
夜明けまでは太刀魚狙い

今回の釣り場は、「太刀魚がたまに回ってくる」という噂がある場所。
そのため、いわゆる特等席付近は若いルアーマンたちが早くから場所を確保している。
私たち年配の餌釣り組は、若者たちより少し丘寄りの、いわばB級ポイントに並んで釣り座を構えた。
夜明けまでの暗い時間帯は、電気ウキ仕掛けで太刀魚狙い。
しかし、この日は太刀魚の寄りがあまり良くなかったようだ。
夜明け前の時合いになっても、ルアー組から歓声は聞こえてこない。こちらの餌釣り組にもアタリなし。
こうなれば、夜が明けてからのサバ釣りに集中するしかない。
日の出は午前5時半ごろ。
サバ狙いなのでタナは浅めの3ヒロからスタートした。前日に来て6匹釣ったという友人も3ヒロで釣っていたので、ひとまず安心である。
「スパッ」とウキが消える快感

この日は曇り空だったせいか、サバが釣れ始めたのは午前6時ごろ。
まず丘寄りに構えていた友人の竿が曲がった。
しばらくすると、私より沖寄りに入っていた知り合いにもアタリ。
どうやら私は完全に出遅れている。
少し意気消沈しながらも投げ続けていると、ようやく私のウキにもアタリが出た。
ヒット!
サバらしい、グイグイとした気持ちの良い引きである。
久しぶりに味わうこの感触。
やっぱり釣りはこれでなくてはいけない。
サバは口周りが比較的しっかりしているので、きちんと針掛かりすればバラシはそれほど多くない。
ただし、このサイズのサバが2匹同時に掛かると話は別だ。
仕掛けが絡んでしまい、いくつ仕掛けがあっても足りなくなってしまう。
今回も一度だけ2匹同時に掛かった。
これがなかなか寄ってこない。
最後は抜き上げるのだが、3号の竿が満月のように曲がるほどの引きだった。
この瞬間がたまらない。
久しぶりの満足釣果

サバの時合いは比較的短く、1時間続いたかどうかというところ。
しかも、この日は入れ食いというほどではなく、1匹釣れてはしばらく回遊を待つという状態が続いた。
それでも、比較的大きな投げサビキ用のウキが海面から「スパッ」と消える瞬間は、何度味わっても気持ちがいい。
最終的な釣果は、良型のサバが8匹。
さらに、これもまずまずの型のマル鯵が2匹。
そのうちサバ2匹とマル鯵1匹は、近くで釣っていた高齢の知り合いが釣れなかったようなので、クーラーに入れてあげた。
自分の分だけでなく、誰かに喜んでもらえる魚が釣れたのも嬉しい。
ここしばらく寂しい釣果が続いていただけに、合計10匹の釣果だが大満足である。
さて、このサバをどうやって食べようか。
やっぱり塩焼きか、それとも刺身か。
脂ののった秋サバなら、何をしても美味いに違いない。
そして冒頭の言葉ではないが、「秋サバは嫁と一緒に食べたいな」である。
明日は午後から野暮用がある。
それでも……やっぱり明朝も釣りに行きたい。
天気予報は雨。
さて、どうするか。
秋のサバが回ってきたとなれば、雨くらいでは諦めきれないのである。