
台風30号が日本列島に接近し、その動向が気になっていた10日ほどの間、波止場の釣況はどうにも冴えなかった。
漁師さんの網入れの影響もあったのだろうか。カマスの釣果は次第に細くなり、タチウオもアジも日を追うごとに渋くなっていった。本格的な秋の釣りシーズンは、この台風が通り過ぎてから始まるのではないか。同じ波止場に通う釣り人なら、誰もがそんな期待を抱いていたに違いない。
待ちに待った台風一過。しかし、待ち焦がれていた時間というものは、普段よりずいぶん長く感じるものだ。台風が過ぎ去った後も、その影響はなかなか消えず、思った以上に落ち着くまで時間がかかったように感じられた。
もちろん、台風の合間にも竿を出せる日はあった。そんなわずかなチャンスを見つけて釣行を続けていた友人もいる。一方で、せっかくの休日を台風に邪魔され、釣りに行けず悶々としていた私のような釣り好きも少なくなかったはずだ。
10月29日、久しぶりの波止場に期待を膨らませて
そして迎えた10月29日。
この日の予報は、今年一番の冷え込みになるという。防寒着をしっかり着込めば何とかなるだろう。北風も多少吹くようだが、それほど強くはなさそうなので、マスクをしていれば十分に過ごせるはずだ。
気になるのは釣り人の数である。
普段なら、よほどのことがない限り平日の朝は比較的簡単に釣座を確保できる。しかし、タチウオやカマスが釣れる時期となれば話は別だ。平日だからといって油断はできない。遠方からやって来る釣り人の中には、前日から泊まり込んで場所を確保する人もいるからだ。
当日は午前2時から行動する予定だった。
ところが、気合が入りすぎたのか、目が覚めたのは午前1時半。前日のうちに準備は済ませていたので、着替えを済ませてすぐに出発した。
釣り場に到着したのは午前2時前。車の中では、聞き慣れたNHKラジオ深夜便が流れていた。まだ2時台の音楽特集ではなく、誰かが熱心に語っている時間帯だった。
何とか釣座も確保できた。まずはアジ釣りから始め、合間にルアーでタチウオを狙う。アジとタチウオを交互に楽しみながら、夜明けを待つ作戦である。
アジはそこそこ釣れたものの、タチウオからの反応はなし。
明るくなってからはタチウオの竿をカマス用に持ち替え、アジとカマスの二刀流に切り替えた。今朝は久しぶりの釣行ということもあって、気合十分。あれもこれもと欲張りな釣りになってしまった。
カマスの活性が上がり、嬉しい忙しさに!
沖寄りの一等席に陣取っていた釣り人たちも、今朝のタチウオは今ひとつだった様子。
タチウオ名人の友人でさえ、餌釣りでは結果が出ず、ルアーで何とか2匹という釣果だった。
あの名人でもそれだけなら、私に釣れるはずがない。そう考えれば、タチウオに相手をしてもらえなかった悔しさも少しは和らぐというものだ。
気持ちを切り替えて、ここからはカマスに集中する。
とはいえ、アジの竿にも反応があれば、当然そちらも気になる。アジが掛かれば嬉しくなって竿を持ち、カマスに反応があれば今度はそちらへ。カマスに専念すると言いながら、なかなかそうはいかない。
ところが、カマスの反応が途切れなくなってくると、いよいよ二刀流では手が回らなくなった。
カマスは竿を手持ちにして上下に動かしながら誘う釣り。アジの竿まで気にしている余裕がなくなり、ついにアジ釣りは一時休止することにした。
これこそ、望んでいた嬉しい忙しさである。
短い時間ではあったが、久しぶりに十分な手応えを味わうことができた。
この日の釣果は、アジが50匹前後、カマスが20匹前後。カマスはもっと釣ったつもりだったが、数えてみると意外に少なかった。そしてタチウオは残念ながらゼロ。
それでも、台風前の渋い状況を思えば大満足の釣果である。
翌日は雨の予報。これだけ釣れたのだから、明日の朝はゆっくり休んでもいいだろう。
……などと考えたのは、ほんの一瞬だった。
今日これだけ釣れたのだから、明日も行けばきっと釣れる。そんな都合のよい思い込みを抱いて、翌朝も釣りに出かけることになる。

10月30日、まさかの寝坊から始まった朝
翌30日。予報どおり、朝から雨模様である。
前日から雨が降ることは分かっていたので、夜中に何度も目を覚ましては降水状況を確認していた。遅くとも午前4時には家を出たいと思っていたのだが、気が付けば午前5時を過ぎていた。
完全に寝坊である。
普通なら、ここで釣行を諦めて、もう一度布団に入り直せばいい。時合に間に合わないのは明らかだし、雨まで降っている。
しかし、昨日の好釣果が頭から離れない。
昨日釣れたのだから、今日も何とかなるだろう。そんな思い上がりともいえる期待を胸に、結局出かけてしまった。
釣り場に着いてみると、幸か不幸か、雨はその時点では降っていなかった。
前日の昼前、私たち朝の組が帰った後にカマスが爆釣したという話が広まっていれば、今朝は大勢の釣り人で賑わっていてもおかしくない。ところが、夜中の雨が影響したのか、思ったほど人は多くなかった。
おかげで、比較的良い釣座を確保することができた。
今からなら、カマスの時合にはまだ間に合いそうだ。
ところが、前日の朝とは様子が違っていた。どうやら今朝はタチウオの回遊があるらしい。
隣で暗いうちから竿を出していた知り合いが、「ルアーでタチウオが釣れている。早く準備して投げたほうがいい」と教えてくれた。
雨模様で薄暗く感じるものの、時刻はすでに日の出の頃。タチウオの時合も終わりに近いのではないかと思ったが、釣れると聞けば竿を出さずにはいられない。それが釣り人というものだ。
大慌てでルアー、正確にはワームを準備して投げ始めた。
魚の気配はあるものの、なかなか針に掛からない。私より後からやって来た知り合いが2匹目を釣り上げた頃、ようやく私にも待望のアタリがあった。
周囲では4匹、5匹と釣果が伸びていく中、私の釣果は3匹。しかも、いずれも細いタチウオだった。
少々落ち込む。
それ以上に、釣り場に着いてからの慌ただしさが気になった。私の釣りのセオリーは、もっとゆったりと構えて釣りを楽しむこと。こんなに慌てて竿を出すのは本来の姿ではない。
釣れなかった言い訳を心の中でつぶやきながら、今度はカマスへと気持ちを切り替えた。

カマスを求めて釣座を移動。雨の中の遠投勝負!
ところが、今朝のカマスは、いつもの釣座では反応がない。
私はこれまで、タチウオを釣った場所で、そのままカマスを狙うものだと思い込んでいた。しかし、どうやら今朝はそうではないらしい。
主だった友人たちが「あちらへ移動しよう」と言い出したので、私も当然のように同行することになった。
一度竿を畳み、クーラーやバッカンなどの道具を車に収納。移動先で改めてカマス釣りの準備を始める。
今度の釣り方は、足元を探るものではない。沖へ遠投し、ルアーをシャクリながら寄せてくる釣りだ。
しかも、ここにきて雨まで降り始めた。
こうなったら乗りかかった船である。
友人たちの釣り方を真似しながら、私も遠投してシャクリを繰り返す。もちろん、まったく知らない釣りではないが、この釣りを得意としている友人たちのように簡単には釣れない。
しばらくは、投げて巻くことの繰り返し。まるでキャストの練習をしているような時間が続いた。
それでも、何とか釣り方が形になってきたのか、ようやく1匹、また1匹とカマスが掛かり始めた。
最終的には8匹を確保。
何とか格好がついた。
雨の中、合羽を着込んで遠投を繰り返すカマス釣り。早朝の運動としては、なかなかやりがいのあるものだった。
寝坊して大幅に出遅れたにもかかわらず、タチウオ3匹とカマス8匹を持ち帰ることができたのだから、これはこれでありがたい釣果である。
釣りは早起きと余裕を持った行動が大切

それにしても、今回の二日間は対照的な釣行だった。
10月29日は午前2時前に釣り場へ到着し、アジ約50匹、カマス約20匹という好釣果。翌30日は寝坊して大幅に出遅れたものの、タチウオ3匹とカマス8匹を何とか確保することができた。
どちらも釣果には恵まれたが、二日目の慌ただしさは大いに反省すべきところである。
今回は偶然にも運よく魚に恵まれた。しかし、これがボーズだったらどうだっただろう。寝坊したうえに雨の中を走り回り、釣果もなかったとなれば、さすがに腐ってしまったに違いない。
釣りは自然が相手。魚の都合もあれば、天候や潮の具合もある。思いどおりにならないことのほうが多い。それだけに、せめて自分でできる準備くらいは万全にしておきたいものだ。
釣りに出かけると決めたなら、予定した時間に、慌てず、遅れず、余裕を持って釣り場に到着すること。
今回の釣行で得た一番の教訓は、魚の釣り方よりも、まず自分自身の行動を整えることだったのかもしれない。
さて、台風一過でようやく本格化した秋の波止場。アジにカマスにタチウオと、まだまだ楽しみは尽きそうにない。


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