昨日の朝は、台風一過で絶好の釣り日和になることが容易に想像できた。海のコンディションも、おそらく申し分ないだろう。ところが、どうしても外せない野暮用があり、断腸の思いで釣行を断念した。最近の釣り場はどうも安定しない。釣果も日によって好不調を繰り返しており、「今日は釣れる日なのか、それとも不調の谷間なのか」と予想するのも難しい。それでも、釣り好きの血というのは困ったものである。釣りに行けないと思うほど、かえって気持ちが海へ向いてしまう。翌朝、目が覚めるともうダメだった。「昨日釣れたのだから、今日はきっと混むに違いない。それなら早く行くしかない!」と、普段より2時間も早く家を出ることにした。家事を終え、映画好きの嫁さんが映画鑑賞を終えた頃に出発。「早いね。気を付けて!」と渡されたペットボトルを手に車へ乗り込む。釣り場までは約15分。アクセルを踏むにつれて、気分も徐々に“戦闘モード”へと切り替わっていった。

ところが、これだけ早駆けしたにもかかわらず、釣り場に着いてみれば私は5番目。正直、1週間前の自分なら「この位置なら竿を出すか、諦めるか」と大いに迷ったところだ。しかし、この日の私は違っていた。何としてでも竿を出したい。しかも、普段から誰よりも早く釣り場へやって来て、一等席を確保して黙々と竿を出している年配の友人まで、すでに私の隣に座っているではないか。「どんだけ早いんや!」と思わず笑ってしまう。聞けば、なんと昨日のうちから来ていたらしい。私より二つ分も良いポジションにいる友人に、「いったいいつ寝てるんや!?」と聞きたくなるほどだ。まさに釣り人の執念である。竿を出す前に、懇意にしている友人から釣況を聞いてみると、「ポツリポツリとアタリはあったけど、ここしばらくは止まっている」とのこと。この話を聞いて、私はすぐに状況を推測した。太刀魚の群れはいったん通り過ぎたのではないか。ならば、太刀魚に押し出されていた鰺の群れが戻ってきている可能性がある。そこで私は、太刀魚の餌釣りの準備よりも先に、足元での鰺釣りを始めることにした。

「太刀魚がいないうちに、アジを釣ってやろう!」そんな算段で仕掛けを投入すると、ほどなくして鰺が竿を曲げてくれた。予想が見事に的中である。周囲の知り合いたちも、この様子を見るや否や慌てて鰺釣りの準備を始める。どうやら一歩先んじることができたようだ。ところが、ここで大きな問題に気が付いた。太刀魚の餌がない。正確にいえば、太刀魚釣りに使うサバの切り身がほとんど残っていないのだ。このところ釣行していなかったため、餌用のサバを補充できていなかった。残っていたのは、わずか5~6枚ほど。それも自分で適当にカットしたものなので、すべてが餌として使えるとは限らない。良くて2~3枚が使えれば御の字だろう。ここで少し余談。なぜ私がそこまでサバの切り身にこだわるのかというと、理屈はよく分からないのだが、とにかく太刀魚がよく食いつくからである。キビナゴやイワシなども餌として使えるが、この釣り場では、ここで釣れたサバを切り身にしたものが断然よく釣れる。しかも、どこのサバでも良いわけではない。釣り場で釣れたばかりの、鮮度劣化の少ないサバを切り身にしたものが、どういうわけか太刀魚には好評なのである。

さて、肝心の太刀魚釣りである。貴重なサバの切り身を大事に使いながら竿を出したものの、結果として餌釣りで釣れた太刀魚はわずか1匹。残りの太刀魚は、すべてワームで仕留めることになった。それにしても、改めて感じたのがワームで釣る太刀魚の手軽さである。基本的には投げて、ただ巻くだけ。もちろん、その日の状況によって巻く速度などを調整する必要はあるものの、餌釣りのように細かな準備や餌の管理に気を遣う必要がない。そして、いったんヒットすれば、その瞬間の迫力はなかなかのものだ。竿先をひったくるようなアタリから始まり、太刀魚独特の引きを楽しませてくれる。それでいて、釣り方そのものはいたってシンプル。長年釣りを楽しんできた身としては、この“簡単に釣れるありがたさ”が身に染みる。特に、ジジイの身となった今では、体力をそれほど使わずに楽しめる釣りは実にありがたいものだ。

結果的には、早駆けして正解だった。5番目という決して理想的とはいえない場所からのスタートだったが、足元では予想どおり鰺が戻っており、太刀魚も餌釣りとワームの両方で楽しむことができた。もっとも、サバの切り身を十分に用意していなかったのは今回の反省点。せっかく太刀魚の気配があるのだから、次回は釣行前にしっかり餌を補充しておきたい。釣りというのは、海の状況を読むことも大切だが、こうした小さな準備の積み重ねも釣果を左右する。台風一過の海、早朝から場所取りに集まる釣り人、戻ってきた鰺、そして太刀魚との駆け引き。振り返れば、今回もなかなか面白い釣行となった。さて、次回はどんな展開になるのだろう。少なくともサバの切り身だけは、忘れずに用意しておこうと思う。
